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2021年4月1日

修了生からのメッセージ NGP第1期生

生命科学研究科
小野寺 麻理子

私は2018年よりNeuro Global Program (NGP) 第一期生として採用され、博士課程後期3年の課程を生命科学研究科・超回路脳機能分野(松井広教授)にて過ごしました。この度、大学院を修了するにあたり、NGPでの思い出や経験を振り返ってみました。未来のNGP生、及び後輩の皆さんにとって、参考になる部分があれば幸いです。

私がNGPで最も印象に残った活動は、長期海外研修です。私は、ドイツのDüsseldorfにある、Heinrich Heine University, Christine R. Rose先生の研究室に滞在しました。Rose先生の研究室は、神経・グリア細胞機能とイオン動態との関連を主に研究しています。特に、細胞内外のイオン濃度計測のためのツール(イオンイメージングや電気生理学的手法)を確立し、研究を進めています。この研究室に決めた経緯は様々ですが、一番の目的は、Rose研の得意とする細胞外イオン濃度計測技術を学び、自身の論文に必要なデータを取得することでした。

何とか滞在期間内(約二か月)に目的を果たすため、平日はほぼ毎日実験を行い、論文のためのデータ取得に全力を注ぎました。このように書くと非常に聞こえが良いですが、実際のところは、制限時間との厳しい戦いです。また当然のようですが、全ての実験に成功したわけではありません。例えば、時間をかけて作製した計測用電極の感度が予想外に悪く、朝7時から準備を始め数時間かけた実験が台無しになったこともありました。このように、振り返ってみると困難の連続でしたが、無事、帰国までになんとか論文に必須のデータを取り終え、論文発表することができました(Onodera et al., Journal of Neuroscience, 2021)。もちろん忍耐は重要ですが、これは自分だけの力ではなく、周囲の厚い支援があったからこそ達成できたことです。研究面や精神面など、あらゆる場面で私を支えてくださったすべての方々には、感謝してもしきれません。

海外研修時、皆さんにも、実験が上手くいかなかったり、あるいは日本との文化や気風の違いに戸惑ったりして、気分が落ち込んでしまうときがくるかもしれません。私の場合、こんな時には気分転換が一番の解決法でした。例えば、平日、実験の合間を縫って、皆と大学のカフェテリアまで、景色の良いキャンパスを歩いてランチに行っていました。また休日に友人と市街地を探索したり、食事やイベントに出掛けたりしたことも、非常に良い息抜きでした。特にデュッセルドルフへの留学を検討している方には、ぜひOld Townを訪れ、その歴史ある街並みや飲食街を楽しむことをお勧めします。

長期海外研修は、なかなか経験できない貴重な機会です。時間の使い方は、皆さんの計画次第で何とでもなります。ですから滞在中は、研究をメインに、最大限に楽しめれば良いかなと思います。アドバイスになるか分かりませんが、参考になれば幸いです。

海外研修の他、脳科学講義もまた有意義な時間だったと感じています。演者は神経科学の第一線の研究者でしたので、自分の研究とは異なる分野の話を聞くことができたのは貴重な経験でした。興味関心の幅を広げる良い機会ですし、たとえ今は関係がなくとも、将来思わぬところでその知識が役に立つかもしれないので、積極的に参加することをお勧めします。

NGP履修生であることのメリットは、たくさんあります。今回は詳しく述べませんでしたが、この他にも国際学会参加の支援や、アカデミック英語講義等、NGPの支援を活用できて良かったと感じています。NGPを修了した今、振り返ってみて思うのは、その支援をどれだけ活用できるかは、自分の決断次第だということです。私自身の経験と反省を含め、後輩の皆さんには是非頑張ってほしいと思います。最後となりますが、私を支えて頂きました全ての方々に、心より感謝申し上げます。

学歴

  • 2016年03月 東北大学理学部生物学科 卒業
  • 2016年04月 東北大学大学院生命科学研究科 博士前期課程入学
    脳情報処理分野(指導教官:飯島敏夫)
    システム神経科学分野(指導教官:筒井健一郎)
  • 2018年03月 同 修士課程修了 修士(生命科学)取得
  • 2018年04月 東北大学大学院生命科学研究科 博士後期課程進学
    超回路脳機能分野(指導教官:松井広)
  • 2021年03月 同 博士課程修了 博士(生命科学)取得

経歴

  • 2018年04月 東北大学 国際共同大学院プログラム Neuro Global Program 第一期生
  • 2019年04月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
    「脳内グリア機能の賦活化による神経過活動制御法の開発」
生命科学研究科
本田 保貴

NGP一期生として、生命科学研究科の博士後期課程およびNGPを修了し、博士の学位を取得した、本田保貴と申します。6年間、筒井健一郎教授のもとで、研究を行ってきました。自分の研究活動を振り返りながら、NGPの後輩の皆さんに向けてメッセージを送りたいと思います。

私は研究室に配属された当初、認知機能を実現する脳のメカニズムに興味があり、ニホンザルを用いた神経生理学実験のグループに入れていただきました。そこで行われていたのは、記憶したカテゴリーや現在のルールの情報をもとに行動を選択させる課題をサルに訓練し、課題遂行中の単一神経活動を記録し、解析するという実験でした。同グループの先行研究では、カテゴリー認知にかかわる神経活動が発見されており、実験デザインも非常に洗練されていて面白く、私自身もやりがいを感じて取り組んでいました。実験装置の組み立て、行動課題のプログラミング、動物の行動訓練など、様々な手技を教わり、実験に臨みましたが、残念ながら、なかなか、良好な神経活動の記録が得られませんでした。長い時間を投じたにも関わらず、思うように結果が出ないことに、次第に精神的なストレスを感じるようになり、実験に使用していたラテックスの手袋が体に合わずアレルギーを発症したりもしました。結局、修士課程を卒業する時点で期待していた成果は全く得られず、精神的にも肉体的にも、自分には研究が向いていなかったと感じ、進学を諦めて就職しようと考えはじめました。

そんなとき、筒井先生からのアドバイスによって、生理学実験から少し距離を置き、データ解析をメインにもう少し研究を続けてみることにしました。そこで取り組んだ研究テーマが、経頭蓋磁気刺激(TMS)の作用機序の解明です。経頭蓋磁気刺激(TMS)は急速な磁界の変化によって脳内に電流を誘起する脳刺激装置の一つです。特定の脳領域への刺激を一定間隔で繰り返す(反復経頭蓋磁気刺激(rTMS))ことによって、うつ病やパーキンソン病、疼痛などの患者に対し、持続的な治療効果が得られることが、経験的に知られています。しかし、rTMSによって脳活動がどのように変化し、治療効果をもたらしているかについては不明な点が多いのが現状です。研究室の別のグループでは、ヒトのモデルとしてニホンザルを用い、硬膜下に埋め込んだ電極群からrTMSによる脳活動の変化を記録する実験を始めていましたが、データ量が膨大なために、詳細な分析は手つかずの状態でした。そこで私は、自分の得意なコンピュータプログラミングの技量を活かして、分析に取り組むことにしました。まずは、高頻度のrTMSにより脳活動のガンマ周波成分が増加し、低頻度のrTMSにより脳活動のベータ周波成分が低下することを見いだすことができました。これは、過去の研究からある程度予想された結果でしたが、予想された結果をしっかりと証明する分析結果を出すことができ、ひとつ自信に繋がりました。それに加えて、毎日データと格闘しているなかで、単発TMSの直後5ミリ秒に特徴的な神経活動が発生していることを発見しました。これは、全く予想していないことでした。便宜的にP5と名付けたこの神経活動は、一次運動野で発生した場合には高い確率で末梢の筋電図が誘発されることから、大脳皮質錐体細胞群の発火活動を反映していると推定されました。錐体細胞の集団発火は、局所神経回路が十分に興奮し、他の脳領域へとその興奮情報が送り出されたことを示唆しますので、P5はこれまで定量化の難しかったrTMSの神経活動への影響、ひいては、「rTMSの施術効果」を表す指標になりうると考えられ、今後のrTMSの臨床・実験応用への大きな道標となると考えられます。P5の解釈をめぐって、筒井先生から紹介いただいた、チュービンゲン大学のAlia Benali先生、ロンドン大学のSven Bestmann先生をはじめ、世界中のTMS実験を行っている先生方にアドバイスをいただき、ディスカッションを繰り返すことで、この発見が非常に重要なものであることを確信するに至りました。私は、それによってようやく、研究テーマを変え、博士課程に進んで良かったと感じるようになりました。

このようなデータ分析に取り組んでいるときに、NGPの海外研修(短期留学)として、チューリッヒ大学のPhilippe Tobler先生の研究室に滞在させていただき、神経活動の多チャンネル同時記録で得られたビッグデータを解析するために使う、多くの解析手法を学ばせていただきました。世界中の研究者とお会いして話を聞けたこと、時には私の研究について話を聞いてもらったことで、大変勉強になったと同時に、自分の研究が、世界中の研究者たちがしのぎを削る「神経科学」業界の一端を担っているのだという事を強く実感し、大いに刺激を受けました。さらには、Tobler教授のもとに集う多くの優秀な同世代の研究者たちに囲まれたことで、私も彼らに負けないように頑張らねばと、意欲的に研究に取り組めました。今後国際社会の一員として働くうえで、世界中の優秀な同世代に負けないように頑張ろうと思えるようになったのは大きな収穫だと思います。また、Tobler教授の温かい助けがあってこそのことですが、海外で新たなことに挑戦して技術を習得した経験は、自分の中で非常に大きな達成感を生み、大きな自信となったことは感謝してもしきれません。

六年間の研究生活を通して、苦しい時期もありましたが、このような貴重な経験ができたのも、指導教員である筒井先生のご指導と、NGPの皆様のご支援があってのことです。卒業後はアカデミックな世界を離れますが、研究を通して得たデータ分析の力を活かして、データサイエンティストとして会計監査の業界に進みます。これまで皆様のおかげで得ることができた経験を存分に活かし、社会に大きく貢献できるように成長していけたらと思っております。これまでご指導、ご支援いただいた全ての方に、心より感謝申し上げます。そして、NGPに在籍している皆さん、これから目指す皆さんには、同窓の仲間として、実りある研究生活を送られることをお祈りしています。