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2022年4月1日

修了生からのメッセージ NGP第2期生(2022年3月修了)

医学系研究科
金谷 哲平

私は生命科学研究科の修士課程在籍時にNeuro Global Program (NGP) 第一期生として採択され、その後、医学系研究科の医学履修課程の4年間を超回路脳機能分野(松井広研究室)で過ごしました。Covid-19の流行により、NGPの海外研修を実施することは叶わず、海外の研究者との共同研究という形でNGPを修了することになりました。留学の制限は今もなお続いており、不安を感じているNGP生も多いのではないかと思います。Covid-19の状況下で、私がどのように博士課程を過ごし、共同研究を進めたのかを共有することで、少しでも皆さんの不安を解消し、今後の研究活動の参考になればと思います。

私は修士課程から博士課程に進学するタイミングで脳機能解析分野(八尾寛研究室)から現在の超回路脳機能分野への異動を決めました。ちょうどその頃、NGPの募集があり、期限一週間前に急いで申請書を書いたと記憶しています。当時は研究テーマを大きくシフトさせたこともあり、自身の研究になぜ留学が必要なのか、どこに留学したいのかなどの具体的な計画があった訳ではありませんでした。ただ、研究を進めていく中で留学をサポートしてもらえる環境にいることは大きなアドバンテージになるだろうとなんとなく感じている程度でした。一方、同期のNGP生は皆、海外の研究室のことをよく理解しており、具体的なプランを持っているようでした。優秀な同期と講義や実習などを共にし、多くの刺激を受けていく中で、じっくりと留学について考えられたことは非常に幸運だったと思います。NGP生の多くは既に、明確な留学の目的をお持ちかと思いますが、もしそうでなくとも、NGP生同志意見を交換することで、留学に対する具体的なビジョンを持てるようになると思います。

松井研での研究では、修士課程で行っていた神経回路の形態学的な研究から一転し、運動学習を評価する行動試験に着手しました。実験結果は非常にばらつきが多く、解析にも多くの時間を要し、思うように進みませんでした。皆さんも経験があるかとは思いますが、研究の半分以上はトラブルシューティングです。問題解決のために多くのラボメンバーに協力いただきましたが、中でも実験を大きく前進させるきっかけを作って頂いたのは、当時、RA として在籍していた物理学科の学部生でした。NGPでも度々ミーティングを行っていますが、そこで構築したネットワークや出会いは、きっと、思わぬところで皆さんの研究を助けてくれます。現在も対面でのミーティングはなかなか難しいですが、オンライン交流会などの機会を活用し、存分に交流を深めてください。

やっと安定してデータが取れ始めた頃、Covid-19が流行し始め、一時は、研究室の出入りも制限される事態となりました。Covid-19の影響により、それまで予定していた留学先に行くことは絶望的でした。講義なども軒並みオンラインで開催される中、偶然、台湾国際大学のWen-Sung Lai教授の講義を聞き、興味を持ちました。Lai教授は精神疾患に対して新しいアプローチで治療薬の開発を進めていました。一見、全く共通点がないようですが、薬の作用機序から神経の可塑性を高める効果が期待できるのではと着想しました。ちょうどLai教授が日本にいらしていたこともあり、早速、共同研究の話を持ちかけると、Lai教授は開発した新薬を快く供与して頂きました。その後、直接お会いすることはできませんでしたが、メールなどで研究成果を共有することで共同研究を進めました。結果は期待通りで、なんとか博士課程修了までにまとまった成果を出すことができました。

以上のように、私のNGP生としての過ごした大学院生活は、成功体験とは呼べないかもしれません。反省も後悔もあります。これらの経験を通して、皆さんにお伝えできることがあるとすれば、困難の状況でも、与えられた機会を最大限に生かしてください。やり方次第で、NGPが掲げる「国際的な研究力」を養うことはできます。もちろん共同研究と留学では大きく異なりますが、海外の研究室の技術の一部は国内にいても利用可能であり、アイディアも参考にすることができます。私自身も共同研究という形で、研究を発展させることができました。決してあきらめず、置かれた状況で最善を尽くすことで、きっと道は拓けてきます。

もう一つは、一つ目のメッセージと矛盾するかもしれませんが、やはりできる限り留学にこだわるべきだと思います。昨年NGPを修了された小野寺さんや本田くんの話を伺い、留学の意義は、研究者として、社会人として、自分の視野を拡大することではないかと思います。
私の場合、Lai先生との共同研究を通して、研究成果を挙げることはできました。しかし、実際に留学することで、研究の背景にあるLai教授のトランスレーショナルな視点や、哲学をさらに学べたのだろうと思います。これらは、研究成果以上に価値のあるものだと思います。私は、今後の研究生活の中で、海外の研究室で経験を積み、より一層、自身の視野を拡げていきたいと思います。皆さんにもきっとチャンスが訪れます。その際には、ぜひ全力で挑戦してほしいと思います。今後、状況が好転し、留学を含め、皆さんが実りある研究生活を送られることをお祈りしています。

最後になりますが、このような状況でも無事、大学院を修了し、学位を取得できたのは、指導教員の松井先生をはじめ、多くのラボメンバーに支えられ、NGP生として研鑽を積めたからに他なりません。Neuro Global Programに参画し、ご支援いただいた先生方、研究室のすべてのメンバーに心より感謝申し上げます。